皿そば日記

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zoom RSS 海野宿紀行(長野県東御市)

<<   作成日時 : 2010/08/19 07:36   >>

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 宿場町に若い女の子が二人、相伴い首の動きを同じにして家々を眺め回している。観光客にしては和服は珍しい。一人は、紺地に大きな花柄をあしらった浴衣か薄物に山吹の帯を締めている。もう一人には驚いた。黒地に桃色の花を大胆に散りばめ、無地の赤い帯が姿を際だたせる。のみならず、着物は膝下までで、黒の脚絆をしめてわらじを履く。本格的な旅装束だ。
 日射しを避け、家並みの軒下を選び進む。二人に近づくと、街道を挟んで反対側に五・六人、和服の二人に仲間がいた。皆中学生のようだ。半袖に短パンの子、甚平の男子。中に、葡萄(東御の特産)の着ぐるみに収まり、顔だけを出す生徒もいた。皆、口々に挨拶をする。実に感じのよい、素直な子どもたちだ。先生らしき人に聞くと、故郷CM大賞の応募作品のビデオ撮りをしているという。夏の休みに集まり、東御市のCMづくりに汗を流す。愛おしい子どもたちに、うれしくなった。

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 海野宿は、北国街道(善光寺街道とも言い、昔の正式名称は北国脇往還)の宿場町である。碓氷峠を越えると、軽井沢宿の先の追分け宿から中山道と善光寺(長野)方面へ向かう北国街道が分かれる。北の浅間山と南の八ヶ岳・美ヶ原に挟まれて佐久平・上田平があり、そこを流れる千曲川に沿って北国街道は横たわる。海野宿は追分け宿から二つめないし三つめの宿場である。二と三が定まらないのは、近くの田中宿と合わせて一つの宿場を構成していたことによる。
 明治になり街道が廃れたとき、海野宿は旅館の大きな空間を生かして養蚕業に転換した。鉄道の駅の話も持ち上がったが、汽車の煙が蚕に悪いと反対し、駅は田中宿にできた。国道も河岸段丘の上を通ったため、海野宿はほぼ宿場町の姿のまま残されたという。昔のままに今あることは。住む人にとって幸か不幸かわからないが、少なくとも都会に住む者には安らぎの場を与えてくれる。

 宿場は今、白、亜麻色あるいは薄桜色の切り妻二階の家が並び、一階および二階の窓に海野格子が美しい。海野格子は、縦の桟を通しの二本、短めの二本と交互に配した格子だ。屋根にはうだつがあがり、鬼瓦が光る。二階の屋根の上に気抜き屋根と呼ばれる細長い屋根を重ねるのは、蚕のための暖房設備の名残だ。うだつをあげるのだから家は全て平入で、庇に瓦を葺く。街道の片側には用水が走り、並んだ木々が涼しい影をつくってくれる。並木の間に景観に配慮した昔風の街灯が立ち、その下に花を咲かせて目を愉しませる。行くと、蕎麦屋の主が打ち水をしていた。気配りがうれしい。
 今回は三度の訪問で、初めは二十年ほど前だった。当時は駐車場も見あたらず、宿場町入口の白鳥神社の脇にままよと止めたことを想い出す。今のように整備される前で、このままで大丈夫かと思える家もあったように記憶する。なまじ文化財になったために、家の維持・管理が大変だと聞いた。新築はおろか、勝手に修理もできない。多少の援助はあるのだろうと尋ねると、何もないという。今はどうかわからないが、その地に住む人の苦労、意志なくして今の見事な町並みがないことは確かだ。

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 町並みを後にする前に土産物屋に寄った。目当ては去年買った“味噌手鞠”だ。落花生に信州の味噌をまぶし、水飴で固めて装いもきれいだ。これが美味い。飴のようだが、口に入れて四五回まわして噛む。僅かな歯ごたえで割れ、口の中に淡い味噌の味が広がる。落花生の滑らかな甘味に次の一粒に手が伸びる。
 店のお兄さんに勧められ、試食しながらドライフルーツも一袋二袋買う。去年試食した小さめの“味噌手鞠”はと聞くと、試食専用と言う。「よく覚えていますね」おまけに見本の味噌手鞠を一袋くれた。次の予定までまだ時間がある旨伝えると、ほど近い前山寺や無言館に寄るよう勧めらる。道順も丁寧に説明してくれる。昨年の松代への道案内も合わせ、感謝の念を伝えた。

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 海野は重要伝統的建造物群保存地区だが、要は人だ。CM撮影をしている中学生(東御市立T中学校放送委員会)、蕎麦屋の主や店の兄さん、町並みを再生した住民の、さりげない言葉や所作、他からは見えない意志がこの海野宿を今形成している。CM撮影をしている場所に一台の軽自動車が止まった。保護者が差し入れをしている。引率の先生がしきりに礼を言っていた。言葉に表さずとも、人の意志はこうして世代を超えて伝えられていくのだろう。ヤマトタケルが東征の途中、海で妻を失った悲しみを胸に、東信濃の小さな海を野となれと叫んだ海野。その野には、幾代の変遷を経ても変わらない、地味でも可憐な花が咲き続けていると思った。

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